« ジョイドアート Gaudí Jewelry コレクション、カサ・バトリョのステンドグラス装飾をモチーフにした透明感あふれるシルバーネックレス | トップページ | ヘレナ・ローナー2024春夏新作:毎日つけたくなる♪ エッグ型タイニーピアス »

2024年4月 1日 (月)

映画「12日の殺人(La nuit du 12)」

La nuit du 12 2年前に観た「悪なき殺人」では無関係に見える遠隔地の出来事を緻密な構成で繋いでみせたドミニク・モル(Dominik Moll)監督。続く本作は人の心の底を深く掘り下げていくサスペンス仕立てのドラマです。

物語の始まりは10月12日の晩。グルノーブル警察署(Commissariat de police de Grenoble)で、引退する捜査班のリーダの壮行会が開かれています。贈られるコラージュにオランド首相の写真が見えますから時代は2017年より前なのでしょう。リーダの後継者はヨアンで、それまでの人情肌のリーダーとは気質の異なる生真面目なタイプです。

Nightofthe12th02

その晩おそく、グルノーブルから東に100kmほど離れた山村、サン・ジャン・ド・モーリエンヌ(Saint-Jean-de-Maurienne)のピエール・マンデス=フランス通り(Rue Pierre Mendès France)で若い女性が殺されます。友人宅のパーティからの帰り道、人気のない夜道でガソリンをかけられ、火を放たれたのです。

通常、山間部は軍警察(Gendarmerie)の管轄ですが、本件はグルノーブル警察が担当することになり、昇進したヨアンが指揮する最初の事件となります。ベテラン刑事のマルソーと組んで現場に向かいます。

Nightofthe12th04

被害者のスマホから身元を特定し、両親と親友のナニーからの情報に基づいて交友関係を調べます。映画の観客は、事件の瞬間、路傍から“クララ”と呼びかけられたシーンを見ていますので、顔見知りの犯行だと知っていますが、目撃者がいませんのでヨアンたちに知る由もありません。それでもマルソーは、生きたまま焼き殺されるのはたいてい女性だといい、彼女に恨みを持つ男性の仕業、つまり痴情だと考えています。

Nightofthe12th01

両親から交際相手だと思われていたバイト仲間のウェズリー、ボルダリングジムで知り合ったというジュールなど調べていきますが、クララは奔放な女性で多くの男性と関係を持っている、特別な相手ではないと言います。クララと破局した後、彼女を燃やしてやるというラップを作ってネットにアップしたという元カレのギャビも出頭してきますが、単に自分は無関係だと伝えにきただけでした。

Nightofthe12th05

犯行現場近くで拾ったというライターを捜査班に送りつけてきた、薄気味悪い引きこもり男まで彼女と関係をもっていたと言います。犯行現場に供えられた花にまぎれておかれていた血の付いたシャツは、以前にDVで有罪になったことのある男のもので、彼もクララと遊びでつきあっていたそう。部屋に使い残しのガソリンが入った容器があり、これで解決かと思わせますが、現在の交際相手が“その晩は自分の部屋にいた”と証言して彼のアリバイも固まってしまいます。

Nightofthe12th11

それでもマルソーは彼に目をつけて電話を盗聴し、交際相手の留守電に残したメッセージから、暴力で脅迫して抑圧する男だとわかります。いきりたったマルソーは彼らの部屋を再訪し、殴って吐かせようとしますが、追いかけてきたヨアンに止められ、結局、マルソーは別の部署に異動になってしまいます。

このように捜査はなかなか進展しませんが、本作は、捜査の裏で展開される刑事たちの人間模様を丁寧に描き、捜査班と事件関係者のやりとりを通じて物事の本質に迫っていくところがポイントです。

Nightofthe12th08

捜査班は昔ながらの強面な刑事から残業の心配をするような新人まで多彩ですが、全員が男性。被害者の親友ナニーが言う“なぜクララが殺されたかわかる?女の子だからよ”という言葉に照らし合わせれば、捜査班全員が加害者と同じ男性であり、被害者に対して"誰とでも寝る女"という偏見を抱きながら、同じ気持ちで彼女と関係した無責任な男たちの取り調べをしているのです。

Nightofthe12th10

映画の終盤で“男と女の間には深い溝がある”とヨアンが語りますが、捜査が膠着状態に陥った段階から、自分も捜査班も男性原理に捕らわれていることに気付いて苛立っていることが見え隠れします。もともと他人と深く関わることを避ける性格で、ストレス解消は競技用自転車でバンクを周回することという彼にとって女性の視点に立つことは難題です。

Nightofthe12th14

一方、相棒のマルソーはといえば、子どもが欲しいという妻の願いを叶えられず、妻の浮気を黙認していたら、あっけなく浮気相手との子どもを妊娠し、離婚したいと言い出したと悩んでいます。居場所を失い、署に寝泊まりしている彼を自宅に泊めてあげるヨアン。とはいえ、トイレを汚すなと注文を付け、署のトイレの状態に嫌悪感を抱いている潔癖症の一面をみせてマルソーを辟易とさせます。

Nightofthe12th15

事件の3年後、予審判事が女性に変わり、迷宮入りになっていたこの事件を、彼女の意向で再び捜査することになります。捜査班には新たに女性のナディアが加わります。以前とは異なる布陣、異なる視点で捜査することになるのですが、その先は観てのお楽しみとしておきましょう。リュミエール賞やセザール賞に輝いているフランス好みの映画ですので、当然というべきか、フランス映画らしい結末を迎えます。

公式サイト
12日の殺人

[仕入れ担当]

« ジョイドアート Gaudí Jewelry コレクション、カサ・バトリョのステンドグラス装飾をモチーフにした透明感あふれるシルバーネックレス | トップページ | ヘレナ・ローナー2024春夏新作:毎日つけたくなる♪ エッグ型タイニーピアス »

フォト