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2024年3月 4日 (月)

映画「落下の解剖学(Anatomie d'une chute)」

Anatomie d'une chute フランスのジュスティーヌ・トリエ(Justine Triet)監督が手がけた法廷劇です。設定と展開の妙でみせる作品ですが、脚本はパートナーのアルチュール・アラリ(Arthur Harari)と共同で仕上げたとのこと。昨年のカンヌ映画祭で女性監督としては3人目となるパルムドールを受賞し、来週発表される米国アカデミー賞でも作品賞、監督賞など5部門にノミネートされています。

物語の舞台はグルノーブル近郊の人里離れた山荘。映画の幕開けはその住人であるドイツ人作家のサンドラが女子学生のインタビューを受けている場面で、サンドラがワインを勧めたり、良い雰囲気で話していますが、ほどなく上階から響いてくる大音量の音楽に邪魔されます。流れてくる音楽は50セントのP.I.M.P.のスチールドラムのバージョン、流しているのは夫のサミュエル。あきらめ顔のサンドラは、“近々グルノーブルに行くから”と仕切り直しを提案して彼女を送り出します。

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場面は変わり、彼らの一人息子ダニエルが盲導犬のスヌープと散歩から帰ってきて、山荘の前に倒れているサミュエルに気付きます。大声で助けを呼び、サンドラが出てきますが、サミュエルは山荘から転落したようで既に息絶えています。

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一見、事故死のように見えますが、検察は不審死とみて、サンドラを起訴します。裁判が始まり、前日に激しい夫婦げんかがあったこと、インタビュー中に大音量の音楽をかけたのは女子学生とサンドラが親密になることを妨害したと思われることなどが明かされていきます。

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つまり、以前から夫婦間の問題があり、サンドラにはサミュエルを殺害する動機があったということ。それに対してサンドラは、夫婦間に多少のいざこざがあるのは普通だという立場です。タイトルの解剖学(Anatomie)はこの夫婦の隠された部分を切り開いていくという喩えなのでしょう。

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問題を複雑にしているのは、事件の第一発見者であるダニエルに視覚障害があり、証言の信憑性に疑問があることと、サンドラがフランス語の話者ではなく、複雑な話は英語でしか伝えられないことの二点。

また被害者のサミュエルがフランス人で容疑者のサンドラが外国人であること、彼女の小説が私的な経験を切り売りするようなスキャンダラスな作風であることが、サンドラを否定的にとらえ罰しようとする論調を後押しします。

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サンドラは旧知の友人である弁護士ヴィンセントに自らの無実を訴えますが、ヴィンセントは“事実がどうであれ、重要なのは人の目にどう映るかだ”と諭します。事実と虚構を曖昧にした作品を送り出してきたサンドラが、事実と虚構の狭間に墜ちるという皮肉な展開です。

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裁判が進むにつれて事故死の可能性が消え、自殺か他殺かに絞り込まれてきます。検察はサンドラが鈍器で殴って窓から転落させたという主張、サンドラはサミュエルには以前から自殺願望があったという主張です。

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興味深いのは彼らの夫婦喧嘩の要因で、男性であるサミュエルが、職業作家であるサンドラの犠牲になって自分の夢が実現できなかったと非難していたということ。社会的に成功した妻を家庭内で支える夫の不満という構図で、よくある男女関係を逆転させています。

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夫は妻の仕事ぶりや世評にコンプレックスを抱き、妻は夫の鬱屈した言動にいらだちを覚える。“お前に人生を奪われた”と非難する夫に対して、“自分で選んだ人生なのに被害者ぶるな”と妻が言い返し、そこに過去の重荷である、妻の不貞や息子を視覚障害者にした事故といった負の要素が絡んで夫婦間の傷を深めていきます。

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息子ダニエルの立ち位置も微妙です。きっと自らの心を守るためなのでしょうが、聴覚が並外れて優れているのに、これまで両親の言い争いを聞かないようにしてきたようです。両親の関係について何も知らないことに気付いて苦悩し、事件後、すべての裁判を傍聴し、時に証人として発言することで、両親の人生に関与していこうとします。ダニエル役の若手俳優、ミロ・マシャド・グラネール(Milo Machado-Graner)の演技が光ります。

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もちろん最大の見どころはサンドラ役のサンドラ・フラー(Sandra Hüller)で、憮然とした表情で演じる裁判シーンから、夫婦喧嘩で激するシーンまで、強い個性とリアリティで物語を動かしていきます。

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これまでも「ありがとう、トニ・エルドマン」や「希望の灯り」といった評価の高い作品に出演してきましたが、本作では初めて米国アカデミー賞にノミネートされました。彼女が出演した「関心領域(The Zone of Interest)」もさまざまな映画祭で取り上げられ、今年は彼女にとって当たり年になったようです。

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その他、主な出演者としては、弁護士ヴィンセント役をスワン・アルロー(Swann Arlaud)、検事役を「BPM ビート・パー・ミニット」のアントワーヌ・ライナルツ(Antoine Reinartz)、ダニエルを保護する法廷監視員マージ役を「パリ13区」のアンバー・スウィート役、ジェニー・ベス(Jehnny Beth)、夫サミュエル役をサミュエル・セイス(Samuel Theis)、インタビューに来る学生ゾーイ役をカミーユ・ラザフォード(Camille Rutherford)が演じています。

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公式サイト
落下の解剖学

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[仕入れ担当]

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