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2024年4月29日 (月)

映画「異人たち(All of Us Strangers)」

All of Us Strangers 2016年公開の「さざなみ」をブログで褒めておきながら、その次作「荒野にて」は何故かパスしてしまったアンドリュー・ヘイ(Andrew Haigh)監督の最新作。原作は山田太一の小説「異人たちとの夏」だそうですが、場所をロンドンに替え、主人公をゲイという設定にして、監督の私生活を反映させたようです。

主人公は脚本家のアダムで、ロンドンの高層住宅で一人暮らししていることから、経済的にはそれなりに安定しているように見えますが、執筆の苦労のせいか、精神的な疲れが滲む40代の男性です。現在は両親との思い出を題材にした作品を手がけているようです。

夜中に火災報知器の音が鳴り響き、外に出て建物を見上げてみますが、ほとんどの部屋は真っ暗で火事の気配はありません。一部屋だけ灯りがついている部屋があり、窓際に人の気配がします。

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自室に戻るとほどなく人が訪ねてきます。ハリーと名乗るその青年は、“窓から君が見えた、君も僕のことを見ていただろう、日本のウィスキーがあるので一緒に飲まないか”と誘ってきますが、アダムは当たり障りなく断ります。

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執筆に行き詰まったアダムは、ふと思い立って、幼少期を過ごしたサウス・クロイドンに行ってみます。ヴィクトリア駅から列車に乗ってサンダーステッド駅に降り立ち、生家のそばまで行ってみますが、両親は彼が14歳のときに他界していますので、もちろん訪ねることはありません。

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しかし、近くのグランドに立ち寄ったとき、父親のような男性を見かけ、後についていくと生家には母親もいます。二人ともアダムが10代だった頃の姿そのままで現在の彼より年下ですが、それでも父は父のように、母は母のように振るまい、アダムにとって違和感はないようです。突然の事故で両親を失い、語りたいことを何も語れないまま現在に至っていますので、アダムにとって欠けた隙間を埋める充実した時間となります。

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ロンドンの住居に戻ったアダムは、エレベーターでハリーと出会います。今回は部屋に招き入れて次第に関係を深めていきます。

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その後もアダムはサウス・クロイドンの両親を訪ねるのですが、あるとき、母親から“結婚しているのか”と訊かれ、自分はゲイであるとカミングアウトします。両親が事故に遭わなければ、その成長過程のどこかで知らせていたでしょうから、その前後で彼らとの関係に変化があったかも知れませんが、唐突な展開に母親は驚愕します。1980年代の価値観のままですので、子どもは要らないのかといった疑問と同時に死に至る病の心配をするわけです。

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アダムは傷つきますが、その後、父親と会った際、幼い頃に虐められていた自分を父親が放置したと語り、父親が非を認めて謝罪したことで、二人は涙を流しながら抱き合います。母親も彼がゲイであることを受け入れていき、3人で外食に出かけた思い出のウィットギフトセンター(Whitgift Centre)のファミレスではハリーを大切にするように諭すようになります。

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こういった感じで、サウス・クロイドンで両親とのわだかまりを解消し、ロンドンでハリーとの関係を深めていくわけですが、もちろん死者と邂逅するはずはなく、アダムは幻影を見ることで内面を見つめ精神的に変化していくわけです。

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そういう意味で、アダム役のアンドリュー・スコット(Andrew Scott)の独演ともいえる作品でしょう。「ジミー、野を駆ける伝説」で演じたシーマス神父や「パレードへようこそ」で演じたゲイ専門書店の主ゲシン・ロバーツのような体制に抗う役柄も似合っていましたが、本作のように多くを語らず、静かに自分自身と対峙していく役柄も良い感じでした。

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またその相手となるハリー役を演じたポール・メスカル(Paul Mescal)も儚さが滲むうまい演技でした。「aftersun/アフターサン」の印象のせいか登場した時点から喪失感を漂わせていましたが、その佇まいも物語に相乗効果を与えていたと思います。

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父親役は「リトル・ダンサー」の、というか最近では「ロケットマン」に出ていたジェイミー・ベル(Jamie Bell)、母親役は「蜘蛛の巣を払う女」「ファースト・マン」「ウーマン・トーキング」のクレア・フォイ(Claire Foy)が演じています。

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幻想的な映像は「帰らない日曜日」「生きる-LIVING」のジェイミー・D・ラムジー(Jamie D. Ramsay)の撮影。選曲もなかなか良くて、本作のテーマ曲ともいえるフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの“The power of love”(歌詞のI’ll protect you from the hooded claw, keep the vampires from your doorが台詞として使われます)や、ペット・ショップ・ボーイズの“Always on My Mind”のような物語の意味を補足する曲の他、アリソン・モイエの“Is This Love?”やファイン・ヤング・カニバルズの“Johnny Come Home”といった80年代の曲が絶妙に馴染んでいました。

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公式サイト
異人たちAll of Us Strangers

[仕入れ担当]

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