映画「ホールドオーバーズ(The Holdovers)」
10年前に観た「ネブラスカ」のアレクサンダー・ペイン(Alexander Payne)監督の最新作です。主要な登場人物が3人というこぢんまりとした作品ですが、その一人であるメアリーを演じたダバイン・ジョイ・ランドルフ(Da'Vine Joy Randolph)がアカデミー賞とゴールデングローブ賞の助演女優賞、主役ポールを演じたポール・ジアマッティ(Paul Giamatti)がゴールデングローブ賞の主演男優賞に輝きました。
舞台はニューイングランドの伝統ある全寮制プレップスクール。内容は題名のそのままで、ホリデ−シーズンの休暇中、寮に“居残り”することになった教師、食堂の調理係、生徒の3人が繰り広げるドラマです。この監督らしいひねりの効いた会話の応酬が楽しめます。
歴史教師のポールは、故あって母校であるバートン校で教えていますが、ホリデ−前の期末試験で厳しい点をつけ、休み明けの追試を言い渡すような教師ですから、休暇中に勉強しなくてはならない生徒たちからは嫌がられていそうです。
また元教え子で今は上司であるドクター・ハーディ・ウッドラップ校長との仲も芳しくありません。プリンストン大学から入学許可が出ていた大口寄付者の子息にFを付けて落第させ、校長を苛立たせたようですが、ポールはどこ吹く風という態度で気にする素振りも見せません。
ポールはそのような校内での位置づけからか、中年の独身男性でバケーションの予定がなさそうだからか、休暇中に自宅へ帰らず、寮に残る5人の生徒たちの子守役を押しつけられます。
5人の生徒たちというのは、金持ち学校の鼻持ちならない生徒の典型ともいえるテディ・クンツ、長髪を切らないとヘイスタック(Haystack Mountain)のスキー場に連れて行かないと父親から突き放されたジェイソン・スミス、一緒にセントクリストファー島(St. Kitts)に行くはずだった母親が恋人と過ごすことになって取り残されたアンガス・タリーの3人と、少し年少のモルモン教徒アレックス・オラーマンと韓国人イエジュン・パクの2人。
休暇中は寮の暖房が止まるということで、保健室で合宿状態になった“居残り”の生徒たちは口うるさい歴史教師と過ごすことに不満げですが、それを意に介せず勉強と運動を強要するポール。生徒たちの鬱憤も堪り、クンツがタリーにちょっかいを出して喧嘩になったり、パクが夜尿症になったりします。
しかしその後、スミスの父親がヘリコプターで迎えに来て、家族から承諾が得られた生徒4人は一緒にスキーリゾートに行くことになります。結果的に、母親が恋人とのバケーション中で連絡がつかなかったアンガス・タリー1人だけが取り残されてしまうのです。そうして、ポール、アンガス、そして調理係のメアリーが“居残り”として一緒に過ごすことになります。
この3人それぞれが複雑な背景を抱えていて、それが表面化することでドラマが展開していきます。たとえばメアリー。一人息子のカーティスが生まれる前に夫を失い、シングルマザーになった黒人女性ですが、息子に良い教育を与えようとバートン校で働いたことでカーティスは無事この学校を卒業しました。しかし大学に進む経済的余裕がなかったことから、陸軍奨学金を得ようと従軍し、ベトナムで戦死してしまいます。それを受け入れられず苦悩している彼女がいるわけです。
これに限らず1970年という時代設定により、いたるところでベトナム戦争を滲ませる映画です。ジェイソン・スミスが長髪のことで父親と揉めるのも反戦運動と繋がっていますし、アンガスが陸軍士官学校(Fork Union Military Academy)に送られそうだと怯えるのも、それを回避しようとポールが奮闘するのも、その先にベトナム戦争の泥沼があるからでしょう。挿入歌にキャット・スティーヴンスの“The Wind”が使われているあたりも時代のにおいを伝えます。
また、ポールが歴史教師であることから、Do not cross the Rubicon(ルビコン川を越えるな)と言ってアンガスを制止したり、それに対してAlea jacta est(賽は投げられた)と言い返したり、元教え子の校長にNon nobis solum nati sumusとキケロを引用して嫌みを言ったり、クリスマスプレゼントにマルクス・アウレリウス・アントニヌスの“自省録(Meditations)”を配ったりといった古典ネタを織り交ぜ、東海岸の名門校らしい雰囲気を漂わせます。
さらに、学校の事務員ミス・クレインと用務員ダニーが登場し、ダニーがメアリーに言い寄ったり、ポールがミス・クレインを意識したり、アンガスがミス・クレインのホームパーティで会った彼女の姪のエリーズと良い雰囲気になったりといったクリスマス映画っぽいロマンスも絡んできます。本筋から外れた部分でも楽しませてくれる映画です。
ポール役のポール・ジアマッティは同じ監督の「サイドウェイ」が有名ですが、最近では「ラブ&マーシー」「ストレイト・アウタ・コンプトン」で音楽プロデューサーを演じていた人。メアリー役のダバイン・ジョイ・ランドルフは「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ」に出ていましたね。2人は共にイェール大学演劇学校の卒業生だそうです。
その他、ミス・リディア・クレイン役で「それでも恋するバルセロナ」に出ていたキャリー・プレストン(Carrie Preston)、アンガスの継父役で「ロケットマン」に出ていたテイト・ドノヴァン(Tate Donovan)が出演しています。
公式サイト
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(The Holdovers)
[仕入れ担当]
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