スペイン

2020年12月 7日 (月)

ラテンビート映画祭「マリアの旅(La vida era eso)」

LaVidaEraEso 今年のラテンビート映画祭2本目は、スペイン人監督ダビッド・マルティン・デ・ロス・サントス(David Martín de los Santos)の作品。初の日本公開作となるこの監督、短編でいくつか小さな賞を獲っていますが、長編ではセビリヤ・ヨーロッパ映画祭ノミネートを果たした本作が最高位のようですので、ほぼ無名の監督と言って良いでしょう。

それにもかかわらず、主役マリアに「ペトラは静かに対峙する」で主人公の病床の母親役を演じたベテラン女優ペトラ・マルティネス(Petra Martínez)、重要な脇役ヴェロニカに「オリーブの樹は呼んでいる」主演のアンナ・カスティーリョ(Anna Castillo)、マリアの夫役に「誰もがそれを知っている」でペネロペの父親を演じたラモン・バレア(Ramón Barea)をキャスティングした豪華版です。

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映画の始まりはベルギー第3の都市ヘントの病院から。
心臓発作を起こして入院している70代の老女、マリアの隣のベッドにヴェロニカという若い女性が入院してきます。彼女はふいに気絶して病院に運び込まれたそうで、自身の病状についてはまったく心配していません。むしろ検査結果が出るまで退院できないことが不満そうです。

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マリアとヴェロニカは親子以上の年齢差ですので、最初はライフスタイルの違いでぎくしゃくしますが、二人ともスペイン人であることと、ヴェロニカのオープンな性格のおかげで次第に打ち解けていきます。彼女がアルメリア出身で、タラゴナやバルセロナで暮らした後、ベルギーに季節労働者として渡ってきたことなどが明らかになります。

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対するマリアは多くを語りませんが、夫と成人した子どもたちが訪ねてくることから、この地に定住していることがわかります。

そんな中で彼女が唯一明かすのは、自分がレオン出身で生まれ故郷は湖底に沈んだということ。具体的な地名は出てきませんが、おそらくリアニョ貯水池(Embalse de Riaño)のことでしょう。1987年末に水門が閉じられ、9つの村が水没していますので、もしそうだとすれば今から30〜40年前に立ち退きになった村民の一人です。フアン・カルロスの即位が1975年ですから、彼女にとってスペインでの暮らしはほぼフランコ政権下の時代ということになります。

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退院間近のある日、ヴェロニカが珍しく食事に手を付けないので理由を訊ねると、医師から心臓移植が必要だと告げられたとのこと。予想外の重病だと知って打ちのめされているのです。マリアはそんな彼女を不憫に思い、退院の際に自分の連絡先を渡します。

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退院後、ヴェロニカの知人が他にいないということで病院からマリアに電話があり、それを機に彼女を見舞い、付き添うことになるのですが、ほどなくヴェロニカは逝ってしまいます。福祉局によると、身寄りのない彼女は火葬され、遺骨は廃棄されるとのこと。マリアは夫の反対を押し切ってヴェロニカの身元引受人となり、骨壺を受け取ります。

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そしてヴェロニカ(通称ヴェロ)を故郷に葬るため、遺骨を抱えたマリアは数十年振りにスペインの土を踏み、ヴェロの関係者を捜し求めてアルメリアを旅することになります。よく知らない女性のために何故そこまでするかというと、一つはヴェロの奔放で自由な生き方に惹かれたということ、もう一つは若くして客死した彼女の無念を晴らすため彼女の分まで生きて楽しもうということだと思います。

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ここから本作の核心であるマリアのロードムービーに切り替わっていくのですが、ポイントは彼女が70代になる今まで、冒険らしい冒険をしたことがなかったということ。スペインで暮らしていた頃は、上で記したようにフランコ政権下の抑圧された生活でしたし、その後も移住先で労働者の妻として慎ましく生きてきたのです。ですから彼女にとって結婚48年目の一人旅は、原題の通り、人生とはそういうものだったんだ、と再解釈する旅になります。

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汽車とバスを乗り継いでアルメリアに辿り付きますが、ヴェロの親はCabo de Gata(当地の塩田)に活気があった時代に流れてきたフランス系とアラブ系の移民だったということで、誰も行方を知りません。

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まともな宿さえないような打ち捨てられた村で途方に暮れるマリア。ところが、ヴェロの交際相手だったファンを探すうちにバー経営者のルカと知り合い、思いがけずさまざまな経験をすることになります。

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そのルカを演じているのがルーマニア出身のフローリン・ピエルジク・Jr(Florin Piersic Jr)。そしてファンを演じているのが「ザ・トランスポーター」に出ていたというダニエル・モリーリャ(Daniel Morilla)。この若い男性2人と接するうちに、ペトラ・マルティネスの表情がどんどん活き活きしてきます。

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マジカル・ガール」「悲しみに、こんにちは」のサンティアゴ・ラカイ(Santiago Racaj)が撮ったアルメリアの寂寞とした風景も良い感じです。当地をクリストファー・ドイルが撮影した「リミッツ・オブ・コントロール」と見比べてみるのも一興かも知れません。

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公式サイト:なし

[仕入れ担当]

2020年11月30日 (月)

ラテンビート映画祭「モラル・オーダー(Ordem Moral)」

Ordem Moral 今年のラテンビート映画祭はオンラインで開催されています。いつも“映画は映画館で!”と言っている私ですが、疫病には抗えず、HDMI接続に戸惑いながら初のネット視聴と相成りました。危惧していた遅延もなく、大画面でも思いのほか鮮明に映り、食わず嫌いは良くないなと反省した次第です。

ということで遅ればせながら鑑賞した今年の1本目は、20世紀初頭の実話を下敷きにしたポルトガル映画。リスボンで発行されている日刊紙ディアリオ・デ・ノティシアス(Diário de Notícias)の創業者一族の事件を内側から描いていく物語で、主演は「ヘンリー&ジューン」のアナイス・ニン役が懐かしいマリア・デ・メデイロス(Maria de Medeiros)が務めています。

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ディアリオ・デ・ノティシアスは1864年にエドゥアルド・コエーリョ(Eduardo Coelho)が創業した新聞社で、本作の主人公、マリア・アデライド(Maria Adelaide Coelho da Cunha)はその娘であり相続人です。といっても事業を仕切っているのはマリアの夫であるアルフレド・ダ・クーニャ(Alfredo da Cunha)で、息子のホセも将来に向けた布石なのか既に経営に参画しています。

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映画のアルフレドは新聞社のオーナー然としたビジネスマン的な雰囲気を漂わせていますが、実際は作家でジャーナリスト。弁護士資格も持つ優秀な人だったようでエドゥアルド・コエーリョから全幅の信頼を得て社長の座を継いだそうです。本作を撮った(文字通り撮影監督も務めた)マリオ・バローゾ(Mário Barroso)監督いわく、実話ベースのフィクションとのことですので、関係がわかりやすいように薄っぺらな人物に設定したのでしょう。

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映画のスタートは1918年末。第一次世界大戦が終結し、スペイン風邪が猛威を振るった年ですが、感染した運転手のマヌエルを見舞ったマリアは、彼を看病するうちに関係を深め、マヌエルの出身地であるサンタ・コンバ・ダン(Santa Comba Dão)で一緒に暮らし始めます。リスボンの約200Km北、ポルトの約120Km南に位置するコインブラ近郊の田舎町です。

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マリアが48歳、マヌエルが26歳という年の差カップルだったこともあり、彼らを捜し出したアルフレドたちは、精神的に不安定だといってマリアを精神病院に入れてしまいます。要するに、22歳年下の使用人と駆け落ちした妻の行為を心の病として片付けたのです。

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彼女の一件に限らず、たとえば英国の「サフラジェット」では“女性には政治判断をするための落ち着きも心の平衡もない”といって参政権が与えられなかったように、女性は精神面で男性に劣り、情緒的な問題を抱えているという考えがまかり通っていた時代です。監督はインタビューで、女性の自由を奪う社会の仕組みを描いたと話していましたが、マリアの場合も、エガス・モニス(Egas Moniz)やフリオ・デ・マトス(Júlio de Matos)、ソブラル・シド(Sobral Cid)といった精神医学界の主流派から診断をくだされたわけで、その診断の背景こそが本作のタイトルである“道徳的秩序”なのでしょう。ちなみにエガス・モニスは政治家として閣僚や大使を務めた後、大学に戻って神経学の教授となり、1949年にノーベル医学賞を受賞しています。

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現実のマリア・アデライドも演劇を愛し、ジュリオ・ダンタス(Júlio Dantas)とも交流があったそうですが、本作では自宅でダンタスの「修道女マリアナ(Soror Mariana)」を上演し、その演出を巡る議論で彼女の内面に関する憶測が語られます。また精神病院ではストリンドベリ(August Strindberg)の「令嬢ジュリー(Menina Júlia)」を上演し、性別と階級を逆転させて彼女が使用人を演じることで彼女の立ち位置を表します。本作のポスターに使われている写真は使用人役で男装したマリアです。

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精神病院から救い出されたものの、潜伏先で官憲に逮捕され、再び入院させられるという過酷な展開となりますが、最終的にはポルトで安逸を得られたというのが監督の視点のようで、エンディングの美しさは見どころの一つと言って良いでしょう。90年代にオリヴェイラ監督の下で撮影監督を務めていただけのことはあります。リスボンのAssociação Casa Veva Limaで撮影したという豪華絢爛な内装と並んで必見です。

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とはいえ、やはり最大の見どころはマリア・デ・メデイロスの演技。奔放なようで現実的なマリア・アデライドを絶妙なバランスで演じています。上流階級らしい格調の高さも、マヌエルに見せる愛らしい表情も魅力的で、「チキンとプラム」でも二面性のある役を演じていましたが、あの不思議な雰囲気がある種の説得力を持たせるのでしょうね。

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その他の出演者としては、夫のアルフレド役をマルセロ・ウルジェージェ(Marcello Urgeghe)、息子のホセ役をジョアン・アライス(João Arrais)、アルフレドの愛人ソフィア役をジュリア・パルハ(Júlia Palha)、メイドのイダリナ役をヴェラ・モウラ(Vera Moura)、マヌエル役をジョアン・ペドロ・マメーデ(João Pedro Mamede)、その友人シセロ役をアルバノ・ジェロニモ(Albano Jerónimo)が演じています。

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公式サイト
Ordem Moral

[仕入れ担当]

2020年11月 9日 (月)

映画「おもかげ(Madre)」

Madre邦題だけみるとシャーロット・ランプリングの映画と勘違いしそうですが、フレンチバスク(正確にはランド県)を舞台にしたスペイン映画です。監督は2017年に観た「ゴッド・セイブ・アス」のロドリゴ・ソロゴイェン(Rodrigo Sorogoyen)。その次に撮った「El reino」が昨年のゴヤ賞で監督賞を含む7部門に輝きましたが、日本公開されませんでしたので、日本で上映される作品としては2本目となります。

本作には前段があり、2年前に同じタイトルで撮った短編「Madre」が米国アカデミー賞にノミネートされ、それをそのまま導入部に使って作られています。つまり評価が高かった短編映画の拡張版で、その短編というのが、主人公のエレナがマドリードの自宅に母親と二人でいるとき、離婚した夫ラモンとバスク旅行に出かけていた一人息子のイヴァンから電話がかかってくるというもの。一人で海辺にいる、父親はどこに行ったかわからないと不安がる6歳のイヴァンをなだめながら、電話のこちら側でパニックに陥っていくエレナをカメラが捉えます。

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マルタ・ニエト(Marta Nieto)の熱演が光る、ほぼ電話に語りかけるだけの一人芝居です。緊迫感が最高潮に達したところで電話が切れてしまい、後の展開は観客の想像に任せることになりますが、本作「おもかげ」はその10年後という設定の物語。そこでわかることは、エレナが一人息子を失ったということのみで、イヴァンがどうなったか、ラモンが何をしていたかは語られません。

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エレナはヴュー=ブコー=レ=バン(Vieux-Boucau-les-Bains)の海辺にある飲食店の雇われ店長をしています。イヴァンが電話でイルンやアンダイエといった地名を出していましたので、どうやら息子を探しに来てそのまま居着いたようです。ヨセバというスペイン人の恋人がいて、このバケーションシーズンが終わったら店を辞め、ドノスティア(=サン・セバスチャン)の近くにある彼の家で一緒に暮らすことになっています。

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こう書くと、息子を失った苦悩から立ち直ったようですが、傷は癒えていないようで、ある日、ビーチですれ違った少年に目が釘付けになります。なぜならその少年に、彼女の記憶にあるイヴァンの面影があったから。心を乱されたエレナは、思わず彼を尾行して家を確かめてしまいます。

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それがパリから夏の別荘に来ていた16歳のジャン。その彼が店に来て、尾行に気付いていたと言い、エレナのことを知ろうとします。最初は軽くいなしていたエレナですが、やはり彼のことが気になって仕方ありません。もともと精神的に不安定だった彼女の内面でジャンの存在がどんどん膨らんでいきます。

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39歳の離婚経験ある女性と高校生男子が二人でいれば周囲は訝しがります。ジャンの元カノであるカロリーヌは、女の勘なのか、初対面からエレナに対抗心を燃やし、早い段階でエレナの気持ちに気付いたヨセバは引っ越しの時期を早めようとします。もちろんジャンの家族、父親のグレゴリー、母親のレア、兄のベノワは最初から微妙な対応です。

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そうやって周囲の人々を巻き込みながら揺れ動いていくエレナですが、実はポイントになるのが元夫のラモンというところが、この映画の面白さかも知れません。彼が登場するのは、ピレネーのリゾートホテルのカフェでエレナと向かい合って話すシーンだけなのですが、この長回しの1ショットが二人の演技力を含めて見どころの一つになっていて、それが終盤で効いてきます。

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主役のマルタ・ニエトは1982年生まれの中堅女優。上記の短編「Madre」で注目され、2019年のベネチアでは本作でオリゾンティ部門の主演女優賞を獲得しています。

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恋人のヨセバ役に「ペトラは静かに対峙する」のアレックス・ブレンデミュール(Alex Brendemühl)、ジャンの父親グレゴリー役に「17歳」のフレデリック・ピエロ(Frédéric Pierrot)、母親レア役に「クリスマス・ストーリー」「エル ELLE」のアンヌ・コンシニ(Anne Consigny)と実力派を揃え、ジャン役の新人ジュール・ポリエ(Jules Porier)の初々しい演技を支えています。

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全般的に端正な映像が特長の作品で、文字が敷き詰められたようなタイトル・シーケンスから余韻を楽しませるようなシンプルなエンドロールまで洒落ています。前々作の「ゴッド・セイブ・アス」は今ひとつでしたが、本作は監督と主演女優のこれからに期待させてくれる一本でした。

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公式サイト
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2020年10月12日 (月)

映画「エマ、愛の罠(Ema)」

Ema チリ出身のパブロ・ラライン(Pablo Larraín)監督。このブログでも「NO」「ザ・クラブ」「ネルーダ」「ジャッキー」といった監督作品の他、プロデューサとして参画した「グロリアの青春」「ナチュラルウーマン」を取り上げてきましたが、彼の監督作品としては初めてチリの現代社会を扱った映画です。

個性的な出演者、印象的な映像や音楽で観客の気持ちを揺さぶりながら、つかみ所の無いストーリーを展開させていく風変わりな本作。監督と共同で脚本を書いたのは「ザ・クラブ」「ネルーダ」でもタッグを組んだギジェルモ・カルデロン(Guillermo Calderón)で、昨年モナドのブログでストーリー展開のうまさを絶賛した「蜘蛛」の脚本家でもあります。

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映画の舞台となるのは首都サンティアゴから西に約100km、海沿いの街バルパライソ。ガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)演じるガストンと、マリアーナ・ディ・ジローラモ(Mariana Di Girólamo)演じるエマの年の離れた夫婦の養子ポロが問題を起こし、再び福祉施設に引き取られたという状況からスタートします。

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なぜ養子を迎えたかというと、夫のガストンが不能で子どもを望めないから。なぜ福祉移設に戻されたかというと、妻のエマに子どもを育てる能力がないと判断されたから。ポロを奪われた結果、エマはガストンの性的能力を責め、ガストンはエマの生活態度を責め立てる悪循環に陥ります。

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ガストンは現代舞踏団を主宰する振り付け師で、エマはそこに所属するダンサーなのですが、二人の不和は舞踏団にまで波及し、内部の対立に発展。エマは仲間たちと舞踏団を飛び出し、レゲトンのリズムに合わせてストリートで踊ります。ガストンが軽蔑し、忌み嫌っている音楽に身を委ねることが彼からの解放なのかも知れません。

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ポロはコロンビア移民の子どもで、彼が放火したためにエマの姉が顔に大けがをしたのですが、そもそもの原因はエマにあるというのが保護司マルセラの言い分。だからこそ彼ら夫婦からポロを取り上げ、別の家庭の養子に出したというのです。それを聞いて、密かにエマはポロを取り戻す計画を立て始めます。

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まずはガストンとの離婚ということで、弁護士のラケルに相談しに行き、彼女と親しくなります。そしてその夫であり、消防士でバーテンダーのアニバルとも親しくなります。ここで彼女のバイセクシャルな魅力が遺憾なく発揮されるのですが、この部分は彼女がレゲトンで踊るシーン、火に魅せられるシーンと並ぶ本作の大きな見どころです。

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対するガストンは、ひたすら情けない顔をして右往左往するだけ。ガエルは「NO」や「ネルーダ」でも込み入ったキャラクターを演じていましたが、本作も以前の二枚目路線とは一線を画すものです。彼もこの監督のおかげで演技の幅が広がったのではないでしょうか。

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周囲を巻き込んでいくエマと孤立していくガストン、軽快に踊るエマと沈鬱なガストン、未来に目を向ける若々しいエマと過去を振り返って老け込むガストン。さまざまな面で対極に位置する夫婦が、今後どのような関係を目指すべきかというのが、エマの計画の帰着点となります。

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不思議な味わいの映画ですが、この監督と長年組んでいるセルヒオ・アームストロング(Sergio Armstrong)の美しい映像、E$tado Unidoなどによるレゲトンのリズムと、マリアーナ・ディ・ジローラモの個性的なキャラクターがうまくかみ合い、妙な結論にもかかわらず何となく納得させられてしまう感じです。バルパライソの海岸や街並みが醸し出す雰囲気もそれを後押しします。

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現在、クリステン・スチュワートが故ダイアナ妃を演じる作品を準備中というパブロ・ラライン監督。今度は何をみせてくれるか、どのようなひねりを加えてくるか期待も高まります。

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公式サイト
エマ、愛の罠Ema

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2020年8月22日 (土)

北スペインに想いを馳せて:フランス国境の町オンダビリアで楽しむ路地散歩と創作料理

昨日に続く旅に出たい!シリーズの第3弾も、サン・セバスチャンから行くワンデートリップ。フランスとの国境の町、オンダビリア(Hondarribia)です。ここも、サン・セバスチャンからバスで約30分ほど。バスは頻繁に運行していますし、片道2.5€ほど(2017年時点)ですので、旅行者には嬉しいですね。

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昔ながらのバスク文化が色濃く残る旧市街は、カメラ片手に散策が楽しいところ。

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緩やかな石畳の坂道を昇ったり・・・

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狭い路地に迷い込んでみたり。

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ベランダに飾られた鉢植えの花が目に優しい。

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昔から戦略的重要拠点であったため、町全体が要塞化しました。

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城砦跡に歴史の名残を感じます。

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商店のウィンドウも興味深い。

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バスク帽(=ベレー帽)を被ったバスク豚?

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こちらは、海岸沿いにほど近い通りにある雑貨店。ほとんどのガイドブックに紹介されている有名店です。

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栗の木を使ったバスク籠をはじめ、いろんな生活雑貨があって、雑貨好きな方には堪らないですね。
右手にみえる魚型の道具は、昨日のゲタリアでお話した炭火焼きに使うもの。魚を挟んで焼きます。

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オンダビリアにも目抜き通りにはたくさんのバルが点在していますが・・・

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このとき訪れたのは、裏路地の奥まった場所にある、Danintzat

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カウンター席のカジュアルな雰囲気ですが、気さくなシェフが地元の食材を駆使して作るお料理は独創的。

新鮮なアンチョビは、美味しいだけでなく、見た目も美しく。

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バスク地方の名物「チャングーロ」をDanintzat流にアレンジ。タラバ蟹の身と蟹味噌で作ったパテです。

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日本人も大好きな牛タン!
バナーで軽くあぶってくれるプレゼンテーションつき。

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海の幸も山の幸も楽しめます。

デザートのアイスクリームも芸術的!

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わかりにくい場所にありますが、グーグルマップを頼って、ぜひ行ってみてください。

小高い丘の上にあるのは、映画「スペインは呼んでいる(The Trip to Spain)」の主人公たちが初日に泊まるパラドール・デ・オンダリビア(Parador de Hondarribia)。

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左手に見える要塞のような建物です。
外からは想像できませんが、カルロス五世の古城を改修した、優雅な佇まいのホテルです。機会があれば泊まってみたい!

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パラドール前のアルマ広場から見えるビダソア川の向こう岸はフランスのアンダイエ(Hendye)。

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サン・セバスチャンからも鉄道やバスで簡単にフランスに行けてしまいますので、時間があればフレンチ・バスクを訪れるのもいいですね。

一昨日から3日にわたってご紹介してきた旅に出たい!シリーズ、いかがでしたか? 北スペイン、行きたくなりますよね!次のご旅行の参考になれば嬉しいです。

[仕入れ担当]

2020年8月21日 (金)

北スペインに想いを馳せて:漁港の町 ゲタリアで堪能する海の幸とクチュリエの世界

旅に出たい!シリーズの第2弾は、昨日お話したサン・セバスチャンを拠点にしたワンデートリップ。街の中心からバスで気軽に行ける港町、ゲタリア(Guetaria)を訪れます。下の船に書かれている Getaria はバクス語表記です。

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のんびりとした海岸沿いを走り、約30分ほどで到着。

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バスを降りると地元出身のフアン・セバスティアン・エルカーノ(Juan Sebastián Elcano)の銅像が迎えてくれます。フェルディナンド・マゼランから船団の指揮を引き継ぎ、1522年に史上初となる世界周航を達成した人物だそうです。

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まずお目当ては、美味しいお魚料理。
映画「スペインは呼んでいる(The Trip to Spain)」にも登場したチョコ・ゲタリア(Txoko Getaria)を目指します。

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お昼前に入店すれば大丈夫だと思ったのですが、甘かった。ガラガラに見えるテーブル席はすべて予約で埋まっているとのこと。

とは言え、地産の魚を供するレストランはたくさんあります。こんな風に外で焼く魚の炭火焼(アサドール)が名物です。

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漁港の先にある、地元で評判の Asador Astillero へ。

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テラス席から海を眺めながら食事が楽しめます。

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野菜たっぷり、オリーブいっぱいのサラダからスタート。

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獲れたての大ぶりなハマグリにレモンをかけて。

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エビもシンプルな塩焼きで。

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魚介の出汁が出たスープはとても美味でした。

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と、ここまででお腹いっぱいになり、魚の炭火焼きには到達できず。次回はぜひ獲れたての魚の炭火焼きを楽しんでみたいと思います。

同じ建物の1階にはアンチョビで有名なMaisor(マイソール)があります。お土産にちょうど良い缶詰や瓶詰め、パック詰めもあります。

ゲタリアは微発泡ワインのチャコリが名産で、丘陵にはワイナリーが点在しています。実際、ワイナリーを目指して、バスを途中下車していく観光客も見かけました。こちらは街角に貼られていた各ワイナリーを紹介したポスター。

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そして、ゲタリアへやって来たもうひとつの目的は、クリストバル・バレンシアガ美術館(Cristóbal Balenciaga Museoa)を訪れること。

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映画「ファントム・スレッド(Phantom Thread)」で主演のダニエル・デイ=ルイスが演じたデザイナーのイメージが、このクリストバル・バレンシアガ。ゲタリア出身のスペインが世界に誇るクチュリエです。

小高い丘の上に建つ邸宅 Palacio Aldamar に併設されるように建てられた美術館。

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この邸宅は、貴族の The Marqués and Marquesa of Casa Torres の住居だった建物。バレンシアガの母親が裁縫婦として働いていたそうで、ここの伯爵夫人が、母親の元で技術を習うバレンシアガの才能を見出し、デザイナーになるように勧めて最初の顧客になったそうです。

ファサードと内装を手掛けたのは、バルセロナ拠点の建築家集団 AV62 Arquitectos

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"Lace Magician" と呼ばれるほど、美しいレース使いにも定評があったバレンシアガ。

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そのレースを思われせる花模様のパンチングメタルが内装の雰囲気に優美さを添えています。

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入り口近くのピンクの小部屋の奥では、バレンシアガの歴史とゲタリアとの関わりを紹介する映像を観ることができますので、そちらを先にご覧になることをおすすめします。

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明日は、フランスとの国境の町、オンダビリアのお話です。

[仕入れ担当]

2020年8月20日 (木)

北スペインに想いを馳せて:サン・セバスチャンで心もお腹も満たされる

あ〜、旅に出たい!という渇望感が高まっている方も多いのではないでしょうか。旅は元気の素!早く自由に旅行ができるようになるといいですね。

というわけで、今は行けませんが、次の旅行先の候補におすすめの北スペイン、サン・セバスチャン(San Sebastián)のお話です。

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世界屈指の美食の街。フーディだけでなく飲食関係者にも毎年必ず訪れているという人が少なくありません。

サン・セバスチャンはヨーロッパ有数のリゾート地でもあります。陽光降り注ぐ、緑豊かな街は、昔、王族が夏を過ごした避暑地だっただけあって、優雅な雰囲気です。

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こちらこちらのブログではビルバオのお話をしていますが、そのビルバオからバスで1時間半ほど。車窓からの景色を眺めているとあっというまに到着します。

3年前に私が訪れたときは、ちょうど第65回サン・セバスチャン国際映画祭が開催されていました。

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街中がお祭りムード。

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このブログでも書いていますが、この年、ドノスティア賞という功労賞にはアニエス・ヴァルダ監督と俳優のリカルド・ダリン、モニカ・ベルッチが選ばれています。3人は授賞式に出席するために訪れていたようなのですが、残念ながら街で見かけることはありませんでした。

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お菓子屋さんやお花屋さんなど、ウィンドウも映画祭がテーマ。

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河口沿いに上映作品のビルボードが並びます。手前に見えるのは、楽しみにしていたのに、結局、日本では劇場公開されなかったダーレン・アロノフスキー監督作品「マザー!」

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そしてこちらは、たまたま見かけたアーノルド・シュワルツェネッガー。ファンからサインを求められて、ご満悦な様子。

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後日、パリの展示会でドイツ・ミュンヘンの帽子デザイナー、ニッキ・マーカートに話したら、オクトーバーフェスト(Oktoberfest:世界最大規模のビールの祭典)にも出没していたとか。「カリフォルニア州知事も辞めて、暇なのね」というオチがつきました。

ところで、この賞に冠されている「ドノスティア(Donostia)」ですが、バスク語でサン・セバスチャンのこと。バスの行き先など公共の表示では Donostia が使われることが多いのでお気をつけください。

さて、サン・セバスチャンは歩いてまわれるコンパクトな街です。天気の良い日の夕刻にもなると、ビスケー湾に面したラ・コンチャ海岸のビーチはたくさんの人で賑わっています。

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混雑を避けるなら午前中がおすすめ。

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散歩の途中、ベンチに腰掛けて世間話に興じている地元のご老人。右端の男性のように、サン・セバスチャンをはじめバスク地方では今でもベレー帽(=バスク帽)を被っている男性を良くみかけます。

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美しい弧を描くラ・コンチャ海岸を一望できる丘、モンテ・イゲルド(Monte Igueldo)へ。
この洒落た石造りの建物がモンテ・イゲルドの麓にあるフニクラル(Funicular)の駅舎です。

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フラニクラルとはスペイン語でケーブルカーのこと。100年以上の歴史を持つ木製のケーブルカーで一気に頂上へ。

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天気が良い日の頂上からの眺めは最高です!

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帰りは海を眺めながら歩いて降り、モンテ・イゲルドの麓から海岸沿いの遊歩道を歩いていくと・・・

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地元出身の彫刻家エドゥアルド・チジーダ(Eduardo Chillida Juantegui)の代表的な作品 Wind Comb(風の櫛)にお目にかかれます。波に洗われ、自然と風景に溶け込んでいます。

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美食の街には食に関する専門店もたくさんあります。

老舗の Almacenes Arenzana で購入したこのツゲ(boj)のスパチュラとフライ返しは、堅いのに持った感じが優しくて、とても重宝しています。

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そして、いよいよ夜はお楽しみのバル・ホッピング!

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バルの多くが旧市街に集まっています。
人気のバルには人が入りきれず、外でおしゃべりしながら、飲んだり、食べたり。

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どこのバルもたくさんの人で、一瞬ひるんでしまいそうですが、ぐいぐいっとカウンターまで近づいてオーダーしましょう。

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美味しそうなピンチョスがたくさんありますので、つい1軒で食べ過ぎそうになりますが、他のバルにも行けるように少しずつ。

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魚介類が多いのも日本人好み。

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秋に訪れることがあれば、こちらのブログでもご紹介している Gambara でセップ茸(伊語ではポルチーニ)をご賞味ください。

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ご覧の通り地元の人で混み合っています。

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採れたてのセップ茸のプランチャには生卵を絡めて。絶品です!

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夜の海岸線はロマンチックです。ピンチョスと地元の微発泡酒チョコリでお腹が満たされたら、夕涼みがてら海岸線を散歩するのもいいですね。あちこちでストリートミュージシャンが演奏していたりもします。

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明日は、サン・セバスチャンからバスで30分ほどの港町、ゲタリアのお話です。

[仕入れ担当]

2020年8月17日 (月)

映画「ぶあいそうな手紙(Aos Olhos de Ernesto)」

Aos Olhos de Ernesto ブラジル南部、ウルグアイ国境まで約400kmの町ポルトアレグレ。そこで暮らす78歳の老人の元に届いた一通の手紙から始まる優しさあふれる映画です。原題は"エルネストの目には……"という意味で、視力の衰えで文字を読むこともままならなくなっている主人公エルネストが、新たに経験し、切り拓いていく世界を描いていきます。

普段、新聞などは隣人のハビエルに読んでもらっているのですが、故郷のウルグアイから届いたその手紙は彼に頼みたくありません。なぜならば、同郷の友人の妻であるルシアが送ってきた手紙だったから。

ハビエルはアルゼンチンのブエノサイレス出身。ウルグアイのモンテビデオ出身のエルネストとは国は違えど、ラプラタ川を挟んだ対岸で、同じスペイン語圏ということで親しく付き合っているのでしょう。

また、ブラジルへ渡ってきた理由も重なりそうです。エルネストはポルトアレグレで暮らして46年と言いますので、ウルグアイを出たのは1970年代の軍政状態になった頃。写真家だった頃のエルネストの話からジャーナリズムに関わっていたようですので、おそらく政変で国を出たのでしょう。アルゼンチンではペロン政権からビデラ政権に変わった頃で、どちらの国でも多くの人が故郷を捨てた時代です。

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エルネストは妻を失ってから独り暮らしですが、ハビエルはひとまわり若い妻と暮らしていて、エルネストと違い目は見えても耳がよく聞こえません。大音量でTVを観ていると妻から文句を言われる、独り暮らしのエルネストが羨ましいと口では言いますが、夫婦仲は良いようです。

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エルネストのひとり息子ラミロは、家族と大都市サンパウロに住んでいて、住居を売って近所に引っ越してくるように折に触れて言ってきます。映画の幕開けは、ラミロの手配で住宅購入の下見に来た夫婦を案内している場面。ここを離れたくないエルネストは書斎の鍵を隠して内見させず、ささやかな抵抗を試みます。

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なぜサンパウロに移りたくないのかといえば、いろいろ理由はあるでしょうが、その一つはポルトアレグレではそれなりにスペイン語が通じるからでしょう。玄関先で偶然知り合ったビアは、上階で暮らす老婦人の犬の散歩係をしているという20代の娘で、学歴があるようには見えませんが、ちゃんとスペイン語を解します。通いの家政婦クリスティナも、読み書きは不得意ながら会話はわかるようです。アルゼンチンやウルグアイに近いことから、移民も多く、言語も文化も多様化しているのだと思います。

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手紙の代読をクリスティナに断られたエルネストは、ビアに頼んで読んで貰います。内容はルシアの夫オラシオの訃報で、エルネストとオラシオとルシアの3人が友人同士だったと聞いたビアは、その仲良しの輪から外れたエルネストの思いに興味津々です。つまり、今後のルシアとの関係にドラマを期待しているのです。

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そういった経緯で文通の手助けを引き受けることになるビアですが、彼女自身、いろいろ問題を抱えていて、エルネストは彼女との交流を通じて清濁併せのむことになります。といっても大きな被害を受けることはなく、彼女に触発されて自らの生き方を見つめ直すことで、ルシアとの文通に変化をもたらします。

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エルネストの意固地な物言いだけでなく、互いに毒づき合うハビエルとの応酬や、歯に衣着せぬクリスティナからの忠告など、それぞれのキャラクターからリアリティある愛情が滲み出してきます。登場人物としてはビアのボーイフレンドが唯一の悪役ですが、彼でさえ、根っからの悪人としては描かれていません。どこを取っても温かな気持ちにしてくれる心地よい映画です。

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それを下支えしているのがカエターノ・ヴェローゾの楽曲。ポルトアレグレ出身というアナ・ルイーザ・アゼヴェード(Ana Luiza Azevedo)監督の風景の描き方もほのぼのとしていて良い感じです。映画を観るとこの地に足を踏み入れてみたくなります。

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主人公のエルネストを演じたのは、日本でも公開されたウルグアイ映画「ウィスキー」で弟役だったホルヘ・ボラーニ(Jorge Bolani)。昨年、俳優生活50周年を記念して「バリモア」(ドリュー・バリモアの祖父でもある俳優を描いたウィリアム・ルースの舞台劇)の主役を演じたというウルグアイを代表するベテラン俳優です。

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ハビエル役のホルヘ・デリア(Jorge D'Elía)はブエノサイレス出身の役者で劇作家、ルシア役のグロリア・デマッシ(Gloria Demassi)はウルグアイ出身で長年コメディア・ナシオナルで演じてきた舞台女優だそう。ビアを演じたガブリエラ・ポエステル(Gabriela Poester)は監督が主宰するカサ・デ・テアトロ・デ・ポルトアレグレで演技を学んだ新進女優、ラミロを演じたジュリオ・アンドラーヂ(Júlio Andrade)はポルトアレグレ生まれの中堅俳優だそうです。

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公式サイト
ぶあいそうな手紙Aos Olhos de Ernesto

[仕入れ担当]

2020年8月16日 (日)

映画「プラド美術館 驚異のコレクション(Il Museo del Prado - La corte delle meraviglie)」

Il Museo del Prado マドリードに行った人は必ず訪れるプラド美術館。歴代スペイン王家のコレクションを展示している世界屈指の美術館ですが、あまりにも広すぎて、足早にベラスケス、エル・グレコ、ゴヤなどの有名作品だけ見て、ソフィアやティッセン=ボルネミッサに移動してしまったという方も多いのではないでしょうか。

所蔵作品約2万点の半数以上を常設展示しているそうで、じっくり見たら1日がかりですね。わたし自身、何度も訪れていますが、館内をくまなく歩き回ったことはないと思います。

そんなスペインを代表する美術館を、映画「リスボンに誘われて」ではプラドなる作家を追い求める役を演じていた英国の名優ジェレミー・アイアンズ(Jeremy Irons)の案内で巡るこの作品。92分の小品ですので、当然、とりあげる作品はわずかですが、だからといって一部の作品の解説に終始することもありません。歴史的背景を織り交ぜながら、なぜここが世界屈指の美術館なのか、なぜこのコレクションが人々の心を捉えるのか、さまざまな角度からプラド美術館の魅力を探っていきます。どちらかというと映画館のシートではなく、ゆったりとしたソファでグラスを傾けながらジェレミー・アイアンズの馥郁たる語りにたゆたいたくなる映画です。

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王室コレクションが形を成したカルロス1世からフェリペ2世にかけての時代に始まり、現在の場所に王立美術館を発足させたフェルナンド7世の時代、その妻イサベル2世の退位で美術館が国有化され、プラド美術館と名付けられた時代までを縦横無尽に彷徨いながら、ファン・デル・ウェイデンの"十字架降架"、ティツィアーノの"アダムとイブ"、ゴヤの"黒い絵"シリーズ、ベラスケスの"ラス・メニーナス"、エル・グレコのねじれた人物像、ボスの"快楽の園"といった傑作を見ていきます。

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ティツィアーノ、ジェレミー・アイアンズの発音だとティシャンですが、このイタリア人画家とフェリペ2世の関係から話題がヴェネツィア派に発展したり、修業時代にティツィアーノを模写したというルーベンスに繋がっていったりします。またベラスケスが王室の代理人としてミラノやヴェネツィアに赴き、主にティツィアーノ作品の買い付けに従事していたことなど、イタリアとの繋がりに繰り返し触れられるのは、本作がイタリアの制作会社によるものだからでしょう。これがデビュー作というヴァレリア・パリシ(Valeria Parisi)監督もイタリア人です。

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ジェレミー・アイアンズはサロン・デ・レイノス(El Salón de Reinos)の回廊も案内します。本来なら2016年のコンペで選ばれたノーマン・フォスター卿(Foster + Partners L.T.D.)とカルロス・ルビオ・カルバハル(Rubio Arquitectura S.L.P)の設計で、プラドが200周年を迎えた2019年に改修されているはずの建物。諸般の事情で遅れているようですが、映画にはフォスター卿も登場してプラドへの思いを語っています。

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もちろん、プラド館長のミゲル・ファロミール(Miguel Falomir)、保存修復担当副館長のアンドレス・ウベダ・デ・ロス・コボス(Andrés Úbeda de los Cobos)、映画「マノロ・ブラニク」にも登場していた美術史家マヌエラ・メナ(Manuela Mena)といったプラド美術館関係者の解説もありますし、オルガ・ペリセ(Olga Pericet)のダンスの他、画家アントニオ・サウラの娘で女優のマリーナ・サウラ(Marina Saura)、フェデリコ・ガルシア・ロルカ財団理事長のラウラ・ガルシア・ロルカ(Laura Garcia Lorca)、スペイン国立古典劇団ディレクターのヘレナ・ピメンタ(Helena Pimenta)、写真家のピラル・ペケニョ(Pilar Pequeno)といった著名人のコメントも紹介されます。

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たとえばマリーナ・サウラ。彼女は三人姉妹で、父親アントニオから“三美神”と呼ばれていたそうですが、実際にルーベンスの作品を見たら、なんだか太っててがっかりしたと言っていました。ちなみにこの部分の字幕、gordasを"ふくよか"と訳していましたが、マリーナはあきらかに嫌そうな表情を浮かべていましたし、他でもintensamenteを“密”と訳すべきところ“刺激的”としていて、映像を見ないで訳したのかなと思う場面が何ヶ所かありました。

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それはともかく、全般としては豊かな気分にひたれる作品です。時間と気持ちにゆとりのあるときご覧になるのがお勧め。私もまたプラド美術館に行く機会があれば、その前後に改めて観たいと思っています。

公式サイト
プラド美術館 驚異のコレクションIl Museo del Prado - La corte delle meraviglie

関連:日本で開催されたプラド美術館関連の展覧会のブログ
2018年 国立西洋美術館
2015年 三菱一号館美術館
2011年 国立西洋美術館

[仕入れ担当]

2020年6月22日 (月)

映画「ペイン・アンド・グローリー(Dolor y gloria)」

DolorGloria スペインの名匠ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodóvar)の最新作です。このブログでもモナドが開店した2008年以降の公開作は、監督作品である「抱擁のかけら」「私が、生きる肌」「アイム・ソー・エキサイテッド!」「ジュリエッタ」も、プロデュース作品である「人生スイッチ」「エル・クラン」「サマ」「永遠に僕のもの」もすべて取り上げてきましたが、映画好きなら絶対に見逃せない監督の一人でしょう。モナド的には、ヘレナ・ローナー(Helena Rohner)が本作に協力したということで、なおさら見逃せない一本になっています。

自伝的な要素を織り込んだというストーリーはもちろん、色彩あふれる映像も染みいるような音楽も、この監督ならではの味わいに溢れています。画家でいうなら回顧展のような位置づけかも知れません。これで引退してしまうのではないかと心配になるような集大成的な作品です。

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主人公の映画監督サルバドールを演じたのは、前々作「アイム・ソー・エキサイテッド!」とその前作「私が、生きる肌」に出ていた監督の盟友アントニオ・バンデラス(Antonio Banderas)。彼がアルモドバルの分身となり、アルモドバルの苦悩と栄光を断片的に散りばめた物語を紡いでいきます。ちなみに主人公が暮らすギャラリーのような部屋にある美術品や小物は監督の私物だそうです。

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映画の幕開けは瞑想しているかのような表情でプールに沈むサルバドール。水を使った映像はこの監督の大切な要素の一つですが、それが冒頭から登場するわけです。その水の揺らぎが川面に変化し、陽光を浴びながら川岸でシーツを洗う女たちを捉えた場面に繋がっていきます。軽口を叩き合い、陽気に歌いながら、シーツを拡げて干す女たち。ペネロペ・クルス(Penélope Cruz)演じる母親ハシンタに背負われているのが幼い頃のサルバドールです。

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ハシンタの隣でロシータ役を演じているのは人気歌手のロザリア(Rosalía)で、彼女たちが歌っているのは1960年代の映画「El balcón de la luna」の挿入歌「A tu vera」。時代性を示しながら、ペネロペ・クルスの魅力を余すことなく引き出し、今をときめくアーバン・フラメンコ・シンガーの歌声を聴かせるという、一粒で3度おいしいスタートです。

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それに続くマーブル模様を下地に配したタイトルクレジットの美しさもさることながら、サルバドールが偶然に旧友スレマと出会うカフェの壁紙もアルモドバル的です。これはセットでなく、マドリードのホテル、ミゲル・アンヘル(Hotel Miguel Ángel)でロケしたそうで、このあたりはスペインならではのセンスでしょう。このほとんど出番のないスレマを演じたのはアルモドバル作品の常連女優であり、「永遠に僕のもの」で主人公を溺愛する母親を演じてたセシリア・ロス(Cecilia Roth)なのですが、こういうベテランを無駄遣いできるのもアルモドバルならではでしょう。

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物語は、身体の各所に痛みを抱え半ば引退状態にあるサルバドールが過去を振り返るスタイルで展開します。その過去の一つが少年期の60年代、故郷の村を離れて地下住居で暮らした頃。もう一つが、スレマと会ったときに話していた映画監督として栄光に輝いた頃。そしてもう一つ、スレマから連絡先を聞いて、旧作の主演男優に会いにいったことをきっかけに繋がっていく時代で、それぞれがサルバドールの創作物と絡みます。

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サルバドールの少年期、母親ハシンタが夫の母親と折り合いが悪く、一家はパテルナ(Paterna)にある地下住居に引っ越します。サルバドールが近所の塔の階段に腰掛け、駅で拾った「悲しみよこんにちは」を読んでいると、通りかかったカップルの女性、コンチータが、本が読めるなら字も書けるの?だったら手紙の代筆をして!と声をかけてきます。地下住居のボロさを嘆いていたハシンタは、コンチータの恋人エドゥアルドが職人だとわかると、キッチンの改修をしてくれるなら息子が無料で読み書きを教えてあげると持ちかけます。

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そうしてサルバドール少年は、セサル・ビセンテ(César Vicente)演じる美青年エドゥアルドに勉強を教えることになります。彼は文字を知らない代わりに絵心があり、それがエンディングのエピソードに繋がっていくのですが、その思い出を映画化した「El primer deseo(初めての欲望)」が、実は本作「ペイン・アンド・グローリー」でもあるという入れ子の構造になっています。

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もう一つの作品は、サルバドールが映画監督として栄光を極めた時代に撮った「Sabor(風味)」。そのリマスター版の上映会で講演することになり、主演男優のアルベルトを探していたときにスレマと再会したのが冒頭の場面です。サルバドールとアルベルトは撮影中に仲違いし、プレミア上映以来、一度も会っていなかったのですが、この作品を見直してみたところ、改めて会ってみようと思い始めたようです。

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スレマに連絡先を聞いて再会したアルベルトとの関係は、歳月を経ていたこともあり、最初はうまくいきかけます。しかし感情的なしこりが蘇って再び仲違いするのですが、ある事情でサルバドールが折れることになります。その際、舞台劇で再起を図ろうとしてたアルベルトに提供するのが、その昔、一緒に暮らしていた恋人フェデリコとの思い出を題材にした戯曲「Adicción(中毒)」。

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アルベルトはその上演を成功させ、たまたまステージを見たフェデリコが、アルベルトを通じてサルバドールに連絡してきます。そうして過去の様々な出来事、自分の内面でわだかまっていた物事と折り合いをつけていくのですが、その奥底にあるのがサルバドールと母親ハシンタとの関係。大好きな母親の期待に応えられなかった自分という心の痛みを受け入れることが重要なテーマの一つになっています。

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アルベルトを演じたのはTVで活躍しているというアシエル・エチェアンディア(Asier Etxeandia)で、フェデリコを演じたのは「人生スイッチ」のAUDI男レオナルド・スバラーリャ(Leonardo Sbaraglia)。

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その他、晩年の母ハシンタ役で「神経衰弱ぎりぎりの女たち」のフリエタ・セラーノ(Julieta Serrano)、サルバドール少年を神学校に進めようとする敬虔な女性の役で「ジュリエッタ」のスシ・サンチェス(Susi Sánchez)、サルバドール少年の父親役で「アイム・ソー・エキサイテッド!」「マーシュランド」のラウール・アレバロ(Raúl Arévalo)、サルバドールの友人兼秘書メルセデス役で「ブラック・ブレッド」で主人公の母親を演じていたノラ・ナバス(Nora Navas)が出ています。

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ちょっとわかりにくいのですが、ノラ・ナバスが着けているアクセサリーがヘレナ・ローナーの作品です。

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公式サイト
ペイン・アンド・グローリーPain and Glory

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